いびつなあなたに―昔ばなしREMIX
みなさん、昔話といったら「桃太郎」や「浦島太郎」などは子どもの頃からなじみがあると思いますが、「かちかち山」のお話は、ご存知でしょうか?
たしかタヌキとウサギが出てくる話でなんか火がついてしまって大変でしたよね。
でも、なんで火がついたんだっけ……?
昔話なんて子どもの話だと思ってナメてたらいけません。
今日紹介する本に出てくるタヌキは、女好きなダメ男。一方、ウサギはひどい悪女。
副題は「堅々獄夫婦庭訓(かちかちやまめうとのすじみち)」となっております。
絵は横尾忠則、文は高橋睦郎。
昔話を最高にカッコよく、面白くリミックスしたような感じです。
横尾の絵は、ポップでサイケデリック、ビートルズのメンバーの顔や、ブリジット・バルドー似の美女がサンプリングされて登場します。
そして、血なまぐさい、欲にまみれた大人のおどろおどろしい物語。
極めつけは、シニカルな「めでたし、めでたし」。
見開きの大きなページ構成で、呼応する絵と言葉。
昔話って、すでに知っているようで、大人になって読んでみたら実は怖い話だったり、言葉の裏の物語を読み取ってしまったりします。
これは、そういうことを絵とあいまってとても楽しくやってのけた作品です。
また、宇野亜喜良の「浦島太郎」では、余白によって言葉の世界が詩情たっぷりに引き立てられていて美しいし、田中一光+坂上弘の「花咲爺」では、途中に裏話が挿入され、本文とミックスされながら読み進めるのが面白いです。
豪華なデザイナー・作家陣によってとても丁寧に作られた、大人のための昔話絵本。
一筋縄ではいかない、だからこそ、何度も開きたくなります。
『日本民話グラフィック』
灘本唯人・永井一正・宇野亜喜良・田中一光・横尾忠則
「一寸法師」「桃太郎」「浦島太郎」「花咲爺」「かちかち山」の5編を収録。
初版 函ヤケ 扉・奥付少シミ 美術出版社 昭39 ¥58,000
そして、もう一点、ちょっと変わった昔話アイテム。
『養老の滝』のレコード付き絵本です。
伊坂芳太良のイラストが全面を飾る美しいカラーヴァイナル。
中村メイコの楽しい語り。
レコードを聴きながら、絵本を見ると、目と耳から立体的に物語が楽しめます。
こちらは、先ほどのとは違って、良い子のための日本名作童話シリーズ。
とても親孝行な息子のお話です。
病に伏している父親のために町へ出て、たきぎを売り、父親の好きな酒を買って帰る日々。
ところが、ある日息子は、山道で足をすべらせて崖から落ちてしまいます。
気がつくとそこには、酒の流れる滝が……。
そうして、これからは父の好きな酒をいくらでも汲むことができるようになって、二人は幸せに暮らすのでした。
この親孝行息子、良い子すぎてなんだかムズムズするなぁと思ったら、伊坂芳太良のあとがき(雑感)を読んで、溜飲が下がりました。
「山の中に、おいしいお酒があることも、大きな夢があることもぼくは信じている。親孝行の話だけでは今の子どもはついて来ないのではなかろうか。」
伊坂好きな方には、レアアイテムとしてジャケ買い必至です。
レコードを飾るも良し、聴くもよし、リミックスするも良し! おすすめです!
『養老の滝』
日本名作童話シリーズ
伊坂芳太郎
マーラックス・レコード 1968年(少水シミ) 14,800円
Uehara
うーん、両方とも!! 当時の人達はぶっ飛んでますね〜
今の自由さと、またちょっと違いますね!
Comment by mario — 2009 年 8 月 26 日 @ 9:22 PM
marioさん
はじめまして。
上原です。
こんな拙い長文を読んでいただき、ありがとうございます!
好きな本を選んで書いているだけなので、
まさかコメントをもらえるとは思ってもいませんでした。
60年代の本は、今見てもホント、カッコいいんですよね。
デザインのアイディアにもなるし、
小さなことは気にせず、やっちゃえという勇気をもらったり。
これからも面白い本を紹介していきますので、
よろしくお付き合いくださいませ。
Comment by Uehara — 2009 年 9 月 2 日 @ 3:53 PM