時空を超えるフォトトラベル
時は1964年、高度経済成長に躍動する日本。
この年、政府によって長らく規制されていた
「観光」を目的とする海外渡航の自由化が認められました。
とはいえ当時の大学生の初任給は約2万円で、1ドルは360円、
ハワイ9日間の旅行は、なんと「36万円」という高額な商品でした。
もちろん現在のように海外旅行の情報も少なく、
ましてガイドブックの類いなどはほとんどない海外旅行黎明期――
カメラと身一つで現地に赴いて世界の“生”を伝えたのは、
時代の最前線で活躍する写真家たちでした。
異文化との出会いの衝撃を伝える力強くも情緒あふれる写真は、
当時の日本人に海外旅行への憧憬を募らせました。
そして世界旅行の情報や画像があふれる今日においてさえ、
色褪せることなく新しい感動を与えてくれます。
それはまさに、初めて異国の地に降り立ったときに誰もが感じる
高揚感そのものと言えるでしょう。
インド→アフガニスタン→ヨーロッパ→ブラジル。
写真家たちが捉えた、時空を超えるフォトトラベル。
想像力をより遠くへと運んでくれる珠玉の4冊を紹介します。
フォーカスの揺らいだサドゥー(ヒンドゥー教の修行僧)の強烈な写真が異世界へと導く。編集やデザインなどの細部にまでこだわる著者ならではの視点から、インドの混沌と深遠さを味わえる。『流れの歌』に続く私家版2作目。
『ブラーマンの光』 鈴木清
SANSARA BOOKS, 1976年
献呈署名入 初版 カバ少インクイミ
Sold
1963年、雑誌『太陽』のアフガニスタン取材をまとめた私家版。時代の波に翻弄される以前の平穏な暮らしや文化を力強く物語る。“あなたに安らぎあれ”と銘打たれた本作は、後の『泥の王国』に結ばれる。
『サラーム・アレイコム』 東松照明
写研, 1968年
初版 ビニカバ
¥38,000
1962-65年のヨーロッパ滞在をまとめた処女作。多重露光やハイコントラストなどの技法を駆使し、多様な文化を独自の視点で見事に切り取る。これまでに見たことのない無二のヨーロッパが広がっている。
『ヨーロッパ・静止した時間』 奈良原一高
鹿島研究所出版会, 1967年
初版 函少イタミ
¥95,000
首都ブラジリヤからアマゾンの人喰い人種、そしてカーニバルまで。広大な土地に息づく人々や文化の多様性をテーマごとにとらえた写真からは、その活気が、その躍動が、サンバのリズムと共に聞こえてくる。
『サンバ・サンバ ブラジル』 三木淳
研光社, 1967年
初版 函 少水シミ
¥16,500
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