10 x 10 American Photobooks: Kazuhiro Yamaji(Flying Books)
(Sorry I wrote this in Japanese at first. will try to up in English asap. K.Yamaji)
京橋のTOKYO INSTITUTE of PHOTOGRAPHY (T.I.P)で開かれる展示会「10 x 10 American Photobooks」(http://tip.or.jp/1010americanphotobooks.html)に併せて、10冊の写真集をセレクトしました。
※期間中、以下の本はFlying Booksにて展示販売予定です。(一部非売品)
選出条件:
1. 1987 年以降に出版された写真集であること。
2. アメリカ人の写真家の写真集(アメリカ生まれ、もしくは長期においてアメリカに暮らしていること)であること。
3. 上記 2 点を満たしていれば、写真集が印刷、出版された国は問いません。
セレクトに際して:
普段から選書で意識していることは、決して「今現在」のトレンドの影響ではなく、10年後、20年後にも古書として扱いたいかどうか、ということ。いくら人気のある作品でも、時代と共に風化してしまいそうなものはここには入りません。1987年という設定は古くもあり、我々の業界ではまだまだ青みの残る果実でもあります。オリジナリティに溢れた視点や表現手法であったり、そのフォトグラファーならではの時代との接し方であったり、作品セレクトの基準は一つではありませんが、しばらく寝かした後、熟し時の味に想いを馳せ、果実を選ぶ楽しみがここにはあります。
(順番はアルファベット順)
1. Allen Ginsberg. Photographs. (Altadena, CA: Twelvetrees Press, 1990).
ビート・ジェネレーションの作家をはじめとするアウトサイダーたちの日々を捉えた作品集は、自身詩人でもあるフォトグラファーと被写体の間の信頼関係があるから可能であろう内側からのドキュメンタリー。
2. John Gossage. The Code. (East Hampton, NY: Harper’s Books, 2012).
夏の強い陽射しの下、大都会で我々日本人の忘れ物をアメリカ人写真家がレンズ越しに拾ったかのような作品集。見慣れた日常の中で見落としていた風景がそこにはある。ブックデザインや編集も本人が手掛け、企画・出版のHarper Levineと共に本企画「10 x 10 American Reading Room Specialists」にも名を連ねている。
3. Susan Lipper. Grapevine. (Manchester: Cornerhouse, 1994).
ウェスト・バージニアの田舎町グレープバインで暮らす、現代の聖なる野蛮人たちのドキュメンタリー。時間をかけて撮影された住人たちの暮らしの風景はまるで映画を観ているかのような感覚に陥る。
4. Ryan McGinley. Moonmilk. (London: Mörel Books, 2009).
もはや写真界のヒーロー的存在となっているライアン・マッギンレイ。クレジットではMorel Booksになっていますが、今回取り上げたのは、それ以前に友人や関係者のために、アーティストの手作りでごく少部数が配られたZINE。レーザープリントの粗いトーンと、幻想的な鍾乳洞窟のファンタジーのマッチングが絶妙。
5. Richard Misrach. Golden Gate: A Seventy-Fifth Anniversary Album. (New York: Aperture, 2012).
ミズラックの真骨頂とも言える定点観測ドキュメンタリー。中でも本作は、人工の造形物と自然とのコラボレーションが魅せる表情の変化が素晴らしい。
6. Richard Prince. Good Life. (East Hampton, NY: Glenn Horowitz Bookseller, 2003).
いつからか蔵書や本棚自体が「作品」と見なされるようになった。シーンの先頭を走る現代アーティストの本への愛情に満ちた作品集。手掛けたのはリチャードが絶大な信頼を置き、2012年、43歳で事故により急逝したブック・ディーラー兼出版社のジョン・マクウィニー。
7. Ken Schles. Invisible City. (Pasadena: Twelvetrees Press, 1988).
本企画に「10 x 10 American Publication Writers」として参加しているフォトグラファー・ライターの第一作品集。二十代後半に発表したニューヨークの下町の風景は、タイトル「視えない街」に相応しく、ノスタルジックで幻想的。http://www.kenschles.com/
8. Alec Soth. From Here to There: Alec Soth’s America. (Minneapolis: Walker Art Center, 2010).
ケルアックやロード・ムービー好きとしては写真の世界観はもちろん好きなのだけど、本作のセレクト理由はユーモア溢れる表紙のデザインと、何より巻末のポケットに差し込まれた小冊子「The Lonliest Man in Missouri」がツボだから。本企画「10 x 10 American Reading Room Specialists」のキューレーターでもあり、今月初来日予定。(http://goliga.com/alecsoth/)
9. Bruce Weber. Let’s Get Lost: A Film Journal, Starring Chet Baker. (New York: Little Bear Films, 1988).
もちろん、ファッション写真界で新たな領域を切り開いたブルース・ウェーバー作品の主役は無機質なまでに華やかで美しい男女であるべきで、この本は代表作と言えないかもしれない。それでも一世を風靡したジャズマンの晩年を描いたこの写真集に満ちた悲哀と愛情の眼差しはなぜか瞼に焼き付いて離れない。
10. Christopher Wool. Absent Without Leave. (Berlin: DAAD, 1993).
画家として知られるクリストファー・ウールが切り取った路上の風景、ハイコントラストなゼロックスコピーで仕上げられた、後を引く写真集。この手法による作品集は似通いがちなものが多いが、1カットごとの力強さと独自の視線で唯一無二のものに仕上がっている。
山路和広 (Kazuhiro Yamaji)
絶版写真集やヴィンテージ雑誌を取扱う東京・渋谷の古書店「Flying Books」店主。雑誌等への執筆、編集をはじめ、「代官山蔦屋書店」のディレクションなども手がけている。著書に『フライング・ブックス 本とことばと音楽の交差点』(晶文社)。www.flying-books.com
10×10 American Photobooksとは? http://tip.or.jp/1010americanphotobooks.html
アメリカの写真集にフォーカスした企画。2013年9月にT.I.Pに設けられるリーディングルームでは、10人のアメリカの写真集に関するスペシャリストがそれぞれあまりまだ知られていない若手作家の作品集(自費出版を含む)を中心に幅広く10冊の写真集を選び、合計100冊の写真集が並ぶ。オンラインでは、英語および日本語圏におけるそれぞれ10名のスペシャリストがオンライン上にて写真集を紹介。日英バイリンガル仕様のスペシャルブックも作成する。このイベントの目的は、ニューヨークの写真家たちやコレクターたちの間でしか知られていなかった/見ることが出来なかった、今最も旬の、また力のある新進作家の写真集を実際に見てもらう機会を提供する事にある。イベント終了後は、広く公共に開かれている場所で多くの方に無料で見て頂くため、セレクトされた写真集100冊を東京都写真美術館に寄付する。