ヒルズの蜘蛛は少女のようなおばあちゃん
Louise Bourgeoisは、1911年パリに生まれ、1938年に渡米、第二次世界大戦後、身体の彫刻とインスタレーションの創作に取り組んできました。
彫刻家として50年以上のキャリアを持ち、その革新的な作風はアメリカのアーティストに影響を与えてきましたが、Louise Bourgeoisのプリントはほとんど出版されておらず、今回紹介します『The Prints of Louise Bourgeois』は、1938年から1993年までの作品を制作過程とともに包括的に見ることができるはじめての作品集です。
長い間、Louise Bourgeoisの研究を続けてきたWye Smithがキュレーターとなり、Louise Bourgeoisが、今まで制作してきた作品とこれから作るものをすべてMOMAに寄贈したおかげで、1982年にMOMAで回顧展が開かれました。
その後、1993年にヴェネチア・ビエンナーレで大々的に名前が知られるようになり、日本でも、六本木ヒルズで巨大な蜘蛛の彫刻を見ることができます。
この作品集では、Louise Bourgeois自身が作品に対して一つひとつコメントをつけています。あるモチーフが浮かび上がると、そこからLouise Bourgeoisの記憶や感情によって、そのモチーフは変化を遂げていき、そこにはLouise Bourgeoisの個人的な象徴が表れてきます。コメントは決して説明的ではなく、絵を動きの中でとらえようとするときに、より深い洞察を与えてくれます。
プリントを見ると、彼女が彫刻家であることがよくわかります。一つの形は、時間とともに変化し、記憶や感情を肉付けされていくようです。物体としての彫刻ではなく、自身の内面を掘り下げていく作業が形となり、その段階ごとに紙に定着させているような感じを受けます。
作家個人の日常的な事柄や、子どもの頃の記憶など、とてもパーソナルなことをモチーフに創作しているコンテンポラリーアートを近年よく見かけますが、1930年代から創り続けてきたLouise Bourgeoisは、かなり革新的な作家だったのではないかと思います。
『The Prints of Louise Bourgeois』
Wye Smith 編
初版 The Museum of Modern Art 1994
図版405点(内カラー76点)
¥18,900
uehara