マーティン・パーさん、ビル・マーレイに変装して下さい
目黒シネマでジム・ジャームッシュ監督の「リミッツ・オブ・コントロール」を観た。映画はジャームッシュ節とも言うべき内容で、心地よく鳴り響く日本のヘヴィメタルバンドBORISの曲に乗せて淡々と進む映像に体を浸しながら、睡魔との戦いにも完勝した。(二本立てなので眠い)オープニングとエンディング共にイイナと思った。あと音楽も悪く無いという印象だった。最近は映画の始まりと終わり、そして音楽に重点を置いて映画を見ている自分に気づく。(決して内容が悪い訳でもない)出演者は豪華でティルダ・スウィントン、ビル・マーレイ、工藤夕貴、ガエル・ガルシア・ベルナル。特にティルダ・スウィントン演じるブロンドの持っている傘がビニール傘だったのには笑った。前から思っていたのだが、映画に出演しているビル・マーレイはイギリス出身の写真家マーティン・パーに似ている。そんな事でマーティン・パーの事を書く事にした。
ちまたではライアン・マッギンリーが、アメリカ写真界の最後のプリンスとしてメディアへの露出が激しいが、世界的に見てストレートな写真表現は、減少傾向にある中、マーティン・パーは欧米では珍しく、コミカルなスナップ写真を作品にしている一人である。コンセプチュアルじゃない作品に、あまり食欲を感じなくなってきた僕にも、マーティン・パーの写真には、すごく食欲をそそられるし、写真集も欲しいと思う。なんでなんだろうと自分に問いかけてみても良い回答が得られない。「自分の所属していない欧米の風景だからだろうか?」「アメリカの映画が子供の頃好きだったからか?」「毎日のようにコカ・コーラを飲んでいるからか?」…………いや、彼はイギリス出身だ。
僕の個人的な趣味や嗜好はともかく、マーティン・パーの写真は、欧米の子供が食べている毛虫みたいなグミや、カラフルなキャンディやチョコレート、僕には理解出来ない派手な色の組み合わせのヌイグルミの持っているブキミ・カワイイ感じがタマラナイ。彼の写真の中では、社会的なヒエラルキーは関係なく、老人、ビジネスマン、若者、主婦、赤ちゃん、いや街のゴミまでも、何か愛くるしくポップで、愛情を感じずにはいられない。特に彼の写真の魅力は、カメラが本来持っている偶然と発見の魅力が、最大限に発揮されている点なので、国境なんか軽く超えてしまえる程の強いインパクトを持っている。マーティン・パーが、エグルストンばりの濃厚な色の写真で、スーパーマーケットの主婦達の格闘シーンや、ホームパーティーの微妙な風景や、本当に心地よいのか?と思わせるゴミだらけのビーチで寝そべっている様子を、彼のちょっとイジワルで愛情ある視線で捕らえる日常の断片は、まるでリアルなモンティ・パイソンの世界だ!
そんな事はさて置き、マーティン・パーが、みんなが大好きな映画「ゴースト・バスターズ」のビル・マーレイ役に扮してハイパーキッチュな作品を作ってくれたら最高じゃないかな?ミシェル・ゴンドリーの映画みたいなユーモアとウィットに飛んだやつをぜひ!彼の映画のファンなら分るよね。
林 裕司
『HOME AND ABROAD』
MARTIN PARR
初版 SC JONATHAN CAPE 1993
¥28,000