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ブログ - Words from Flying Books

110人のイラストレーターともうひとり

堀内誠一の名前を知らない方でも、an・anやBRUTUSのロゴはご覧になったことがおありでしょう。谷川俊太郎との『マザー・グースのうた』や絵本『ぐるんぱのようちえん』、
『クリーナおばさんとかみなりおばさん』などを手に取ったことがある方なら、色と線が踊りだしそうな堀内さんの絵の魅力をよくご存知のことでしょう。
今年の夏には世田谷文学館で「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」展が開かれ、その多彩な仕事が紹介されていました。
そのなかにはパリに家族とともに移住し、ヨーロッパを旅した堀内さんが集めた絵本の展示もありました。『絵本の世界 110人のイラストレーター』をつくるときに実際に使われた絵本たちです。
この本のどれも魅力的な多数のイラストの図版は、なるべく初版に近い原本を直接原稿にしているのです。画像情報としての図版ではなく、数多くの子どもたちが見て、感じた絵本の絵として再現したいと云う思いからです。
堀内さんのレイアウトの力もあり、イラストレーターたちの絵本の世界が活々と立ち上がります。

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紹介されているイラストレーターは18世紀から20世紀に及び、英語圏外のものも多く含まれます。近年日本でも人気のチェコのヨゼフ・ラダやオンドジェイ・セコラ、約50年ぶりに復刊された『年を歴た鰐の話』のレオポール・ショヴォーらもこの1984年出版の本には取り上げられています。

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絵本作家として名の知れた人は勿論、ウィリアム・ブレイク、岸田劉生、アレキサンダー・カルダーのようにファイン・アートの作家として知られている人、母の書いたグリーン・ノウシリーズの挿絵のみが絵の仕事の建築家ピーター・ボストン、『指輪物語』を書いた文献学者J.R.R.トールキンもここではイラストレーターのひとりです。
堀内さんも語っているように到底110人では収まりきらないところを、絵本史の流れを考慮しながら、かつてひとりの子どもだった目から、そして自身も子どもの本に絵を描く人として、この110人を択んでいます。
各作家についての文章やIntermezzoとして差し挟まれるエッセイも絵本への理解を深めてくれ、読み物としての面白さもたっぷりです。
懐かしさと発見。眺めて好し、読んで楽しの二冊です。堀内さんの笛の音についていったなら、鮮やかな色とかたちにあふれたわくわくする世界へと足を踏み入れることになるでしょう。絵本と云うことばに臆することはないのです。第一集の冒頭の言葉がこの二冊の本があなたのためのものだと言っています。“おおきな子どもたちへ”

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絵本の世界 110人のイラストレーター 第1集・第2集 2冊セット 
輸送函 座談会折込付録付 福音館書店 1984年
¥18,900

Tanaka

2009 年 10 月 7 日 | 1 comment
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無節操なビジュアリスト

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20世紀のビジュアルイメージを破壊的に挑発し続けた男がいる。その名はウィリアム・クラインである。あまりにも時代の先を行っていて、いささか忘れられた感もあるクラインだが、ところがまだこの男からまだ何か絞り出せそうだ。

ニューヨークのハーレムに裕福なユダヤ系アメリカ人として生まれ、学校に行くより映画館や美術館で過ごした早熟な彼は14才で高校を卒業し、現在のニューヨーク大学に入学している。その後軍隊に入隊し、ヨーロッパ戦線に出向き彼の人生を決定的に変えるパリへ到達する。クラインはとりあえずレジェのもとで絵を学び、閉鎖的な美術の世界に我慢が出来ず、絵画からデザインへ、そして写真、映画へと向かう。

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『Photographs An aperture monograph 』より

特に衝撃的だったのは写真集「ニューヨーク」である。素人がエネルギーにまかせて暴力的に撮影したかのようなこの写真集は、さまざまな物議を呼び世界中のビジュアルメッセンジャーに多大な影響を与え映画監督のフェリー二やルイ・マルなどの関心の的にもなった。ニューヨークの後、「モスクワ」、「東京」、「ローマ」と立て続けにフイルムに修めた。その期間は正味三ヶ月と言うのは驚愕に値するとともに彼のスタイルを浮かび上がらせる。その後彼は、写真を捨て映画へと向かう。特に有名なのはあの完璧主義者の変態巨匠スタンリー・キューブリックが「10年は先をいっている」とぼやいた「ポリー・マグーおまえは誰だ」だろう。その後クラインは立て続けに映画を撮り続け、なんと四半世紀のあいだに24本の映画をつくる。あまりのスピードと破壊的なイメージに嫌悪感さえ抱く人さえいるだろう。ロバート・フランクが、写真界の尊敬の的として崇められるのにたいして、クラインはただの奇抜な「パリのアメリカ人」として受け入れられているのは少々悲しい。

klein32  klein22『Photographs An aperture monograph 』より
 
クラインにとって絵画や、写真、映画などは手段にすぎなくて、ラディカルな生の光の閃光が重要なのである。根源的な生の一瞬の光が稲妻のように瞬く時、ディオニュソス的な生の快楽が浮かび上がり、ニーチェが丘の上で体験した生の肯定感にも似た体験を想像させる。ある人はクラインを「マッカーサーと原爆の時代の大詩人」と少々オーバーに呼んだ。

クラインが誰からも相手にされなくなっても彼の映像は今後生まれてくるたくさんの芸術家に影響を与え続けるだろう。地位や名声、生きながらに神格化されることなんてこの男には関係ない。

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Photographs An aperture monograph
William Klein(ウィリアム・クライン)
1981  初版 HC カバー(背少ヤケ)
¥38,000

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MOSCOW
William Klein(ウィリアム・クライン)
1964  献呈サイン入 初版 カバーイタミ
¥175,000

 林 裕司

2009 年 9 月 30 日 | comment
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私だけのとっておきを。

名古屋のカッコいいセレクトブックショップ【YEBISU ART LABO】の岩上さん・黒田くんは、ボケ・ツッコミが絶妙な(ときどきボケ×ボケだったりする)ほんわかコンビ。ほんわかしていても、実はこの二人、名古屋の書店と街をつなぐ大規模な本のイベント「BOOKMARK NAGOYA」の実行委員長でもあります。

その超多忙な二人が、出版レーベル<ELVIS PRESS>を立ち上げ、選りすぐりの新しいアーティストたちのZINEや写真集を満を持して出版することになりました。先の「ZINE’S MATE」でも<ELVIS PRESS>のZINEは大好評で、このたびフライング・ブックスでも扱うことになりました。

新刊・古書問わず、今までたくさんの本を扱ってきた二人だからこそ、先鋭的なセンスを持ちながらも流行に流されない才能を見出したのでしょう。

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『STOMACHACHE./STOMACHACHE.』 ¥840

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 『水面森 - minamori - / 伊藤よう子』 ¥840

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『DAWN/Yoh Nagao』 ¥945

 

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『DAWN2/Yoh Nagao』 ¥1575

 

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『White Book/ Masahiko Tokita』 ¥1050
※画像は真っ白ですが、撮影ミスではありません。
  白い紙に白いインクで印刷してあるのです。

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写真集『Goodbye,Blue Monday』Yutaka Kobyashi ¥1470

 
どれも他では見られないような個性的な作品なのですが、なかでも、私のお気に入りは、『STOMACHACHE.』。今年の春、YEBISU ART LABOのギャラリーで『STOMACHACHE.』の展示を見ることができ、その一見かわいいのになんかちょっと変わっている絵に一目ぼれしてしまいました。

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   頼りなさげなフラットな線画、だけど、ジャケットの格子模様は几帳面に描いていたり、何か小さくも強いこだわりを感じます。まだ若い作家で、アメリカのスケーターカルチャーにも影響を受けているそうです。布にシルクスクリーンで刷った「STOMACHACHE.」のタグ入り(色違い)。見開きページの色紙も色違いで作るなど、遊び心をくすぐるZINEです。

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80年代後半、西海岸のスケーターたちが、写真やイラスト・詩など自分の表現したいことをまとめて、ローカルに流通させていったときのザラザラしたストリートの空気感とは違い、日本のZINEは、もっとクラフト的なこだわりや、表現内容も個人の内側に入り込んでいく印象があります。

ZINEは、個人が表現したいものを作り、コピーしてホッチキスで留めただけの原始的な形が多いですが、手作りで100部くらいしか作らないので、メディアというにはあまりにも規模が小さいものです。同人誌的なものって、独りよがりで、自己完結してしまいがちだし、ZINEの多くはメッセージ性などなく、とりとめのない落書きのようなものと見られがち。

でも、商業的な雑誌やフリーペーパーが溢れている今、そこでしか見られない個人的なわけのわからないエネルギーに惹かれてしまいます。とても個人的なところから発しているのに、その空気を共有したいと思ったり、その作家の好きなものに共感できるのは、なんだか不思議で面白いことですね。

その時の空気が込められたものは、表現がリアルなまま伝わってくるから、ブログやSNSとは違って、手に取ったときに紙やインクの質感やにおいを感じたり、小さなところから手渡しで広まっていく流通の仕方など、顔の見える生のコミュニケーションってやっぱり面白い!

店頭でサンプルも置いていますので、ぜひ手にとってご覧ください!

 ELVIS PRESS by YEBISU ART LABO FOR BOOKS
http://www.elvispress.jp/

*スイスのNivesやスウェーデンのFAREWELLなども有名。

http://www.nieves.ch/
http://www.farewellbooks.com/

Uehara

2009 年 9 月 12 日 | comment
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エレガンスの設計

ファッション誌の代名詞ともいえるヴォーグに1931年から70年代までもの長きにわたって質の高いファッション・フォトを発表してきたホルスト(HORST P. Horst)。
カール・ラガーフェルドやカルヴァン・クラインなどのスター・デザイナー、ブルース・ウェーバー、ハーブ・リッツ、デュアン・マイケルズらの著名な写真家もホルストのオリジナル・プリントのコレクターなのだと云う。

1992年出版の彼の写真集『FORM』には1935年から1990年までに撮影された作品が―年代順にではなく―収録されている。

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ヴォーグではカラー写真も多く見られるが、ここではモノクロ作品のみで、頁をめくるとギリシャ彫刻、ファッション写真、メール・ヌード、植物、オブジェ、フィメール・ヌード(一見わかりにくいが風景写真も)が、かわるがわる現れてくる。
しかしモチーフの違いは決して散漫な印象を与えることはない。
ヴォーグの仕事でも、綿密な計算のもとに完璧なセットを組んでのスタジオ撮影を好んだと云うホルストの美学に、これらの異質なモチーフの作品群が貫かれているからであろう。

グロピウスの芸術学校で建築を学び、ル・コルビュジェを慕ってパリに来たと云う経歴もうなずけるように、彼の作品は照明の遣い方などが立体的で、平面だけでなく量感も意識して構成され、ドラマティックな独特の空間をつくりあげている。
流行の衣服を纏ったモデルもギリシャの神々も多肉植物も、このホルストの空間の中では何の区別もなく、日常とは異なる輝きを帯びる。

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有名な「マンボシェのコルセット」は言うに及ばず、肖像写真を撮るかのように念入りに照明をあてられた足や手などの人体のパーツ、オウム貝、棕櫚の葉のしずくはフェティッシュな香さえ漂わせる。
巻末にはホルストを写真家、そしてヴォーグへと導いた、自身もヴォーグ及びハーパース・バザーで活躍したジョージ・ホイニンゲン=ヒューンによる1931年、20代半ばのホルストをモデルとした一枚が添えられている。

『FORM』 HORST  1992 Twin Palms Publishers 21000円

Tanaka

2009 年 9 月 3 日 | comment
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銀色のFactory

誰でもTVを見る。誰でもコークを飲む。誰でもモンローやプレスリーを知っている。大量消費社会で生み出された工業製品や、毎日目に入るマスメディアの情報だってアートになる。近寄りがたい雰囲気の美術を大衆に受け入れやすくしたのが「ポップアート」である。そしてその中心にはアンディー・ウォーホルがいた。
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チェコスロバキア(当時)の移民の子で、デリケートな少年だった。若い頃のナイーブな写真と、後のニヒルなまでにクールな写真の差は非常に興味深い。ホモで、マザコンで、ゴシップマニアで、アンダーグラウンドの帝王だった。銀色のFactoryにはたくさんの有名人が訪れた。ミック・ジャガー、ルー・リード、トルーマン・カポーティ、イーディ・セジウィックその他にも数えきれないほど集まった。銀の暗い光沢で包まれた空間では、昼夜関係なく人が出入りし、パーティーとも仕事ともつかない日々が続き、ドラックピープルや、スノッブな美しい男女の中で、一人冷めた傍観者の眼差しでウォーホルは機械のように作品を生産し続けた。「僕は機械になりたい」と発言しさえし、彼は知性さえも疑われた。
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アンダーグラウンドの帝王の作品は、すごくシンプルだった。コカ・コーラの瓶、ドル紙幣、有名人のポートレート、ミッキーマウス、交通事故の写真、電気椅子等々。これらのモチーフが無限に繰り返されヴィヴィッドなインクで刷られた。飼っている二十五匹の猫の名前が全てサムだったという話も納得がゆく。表面だけのペラペラなイメージは、見た目はポップだが、何か非人間的な冷たさを感じさせ、死のイメージを連想させる。後に彼は「僕を知りたければ、表面だけを見ればいい。裏側には何も無いんだ」と質問に答えた。無限に繰り返される無機質なイメージの反復は全てを均一にし、それらは意味を失い、上も下も無い混沌の快楽に突き進む。一度この快感を味わえば、もう後戻りは出来ない。
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林 裕司

「ANDY WARHOL」 Rainer Crone 1976年 出版社PREAGER PUBLISHERS 48,000円

2009 年 8 月 31 日 | comment
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いびつなあなたに―昔ばなしREMIX

みなさん、昔話といったら「桃太郎」や「浦島太郎」などは子どもの頃からなじみがあると思いますが、「かちかち山」のお話は、ご存知でしょうか?
たしかタヌキとウサギが出てくる話でなんか火がついてしまって大変でしたよね。
でも、なんで火がついたんだっけ……?
昔話なんて子どもの話だと思ってナメてたらいけません。
今日紹介する本に出てくるタヌキは、女好きなダメ男。一方、ウサギはひどい悪女。
副題は「堅々獄夫婦庭訓(かちかちやまめうとのすじみち)」となっております。
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絵は横尾忠則、文は高橋睦郎。
昔話を最高にカッコよく、面白くリミックスしたような感じです。
横尾の絵は、ポップでサイケデリック、ビートルズのメンバーの顔や、ブリジット・バルドー似の美女がサンプリングされて登場します。
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そして、血なまぐさい、欲にまみれた大人のおどろおどろしい物語。
極めつけは、シニカルな「めでたし、めでたし」。

見開きの大きなページ構成で、呼応する絵と言葉。
昔話って、すでに知っているようで、大人になって読んでみたら実は怖い話だったり、言葉の裏の物語を読み取ってしまったりします。
これは、そういうことを絵とあいまってとても楽しくやってのけた作品です。

また、宇野亜喜良の「浦島太郎」では、余白によって言葉の世界が詩情たっぷりに引き立てられていて美しいし、田中一光+坂上弘の「花咲爺」では、途中に裏話が挿入され、本文とミックスされながら読み進めるのが面白いです。

豪華なデザイナー・作家陣によってとても丁寧に作られた、大人のための昔話絵本。
一筋縄ではいかない、だからこそ、何度も開きたくなります。

日本民話グラフィック
灘本唯人・永井一正・宇野亜喜良・田中一光・横尾忠則
「一寸法師」「桃太郎」「浦島太郎」「花咲爺」「かちかち山」の5編を収録。
初版 函ヤケ 扉・奥付少シミ 美術出版社 昭39 ¥58,000
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そして、もう一点、ちょっと変わった昔話アイテム。
『養老の滝』のレコード付き絵本です。
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 伊坂芳太良のイラストが全面を飾る美しいカラーヴァイナル。
中村メイコの楽しい語り。
レコードを聴きながら、絵本を見ると、目と耳から立体的に物語が楽しめます。

こちらは、先ほどのとは違って、良い子のための日本名作童話シリーズ。
とても親孝行な息子のお話です。
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病に伏している父親のために町へ出て、たきぎを売り、父親の好きな酒を買って帰る日々。
ところが、ある日息子は、山道で足をすべらせて崖から落ちてしまいます。
気がつくとそこには、酒の流れる滝が……。

そうして、これからは父の好きな酒をいくらでも汲むことができるようになって、二人は幸せに暮らすのでした。

この親孝行息子、良い子すぎてなんだかムズムズするなぁと思ったら、伊坂芳太良のあとがき(雑感)を読んで、溜飲が下がりました。
「山の中に、おいしいお酒があることも、大きな夢があることもぼくは信じている。親孝行の話だけでは今の子どもはついて来ないのではなかろうか。」

伊坂好きな方には、レアアイテムとしてジャケ買い必至です。
レコードを飾るも良し、聴くもよし、リミックスするも良し! おすすめです!

『養老の滝』
日本名作童話シリーズ
伊坂芳太郎
マーラックス・レコード 1968年(少水シミ) 14,800円

Uehara

2009 年 8 月 26 日 | 2 comments
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“紙たちの博物館” ゴメス氏のおくりもの

なにかを集めたことはありますか?
稀覯本やめずらしい切手でなくても、小石や貝殻、壜のふた、シールなどの小さなものをついつい集めてしまったことは?
スペインの14歳、ホアキン・ゴメス君は、飛行船やはにかむ少女、エキゾチックな風景の魅惑的なポストカード、ラベル、ポスターを集め始めました。1916年の事です。
どんな図柄だったのかは分かりません、しかし最初のある一枚が彼を10数万枚もの紙たちとの出会いへと連れ出したのです。

長じてホアン・ミロらと芸術運動を興し、写真家ともなったゴメス少年、いえゴメス氏のヨーロッパ最大といわれるコレクションから、テーマ毎に一冊ずつまとめた、この『100年前のヨーロッパ』シリーズは日本オリジナルで1985年に出版されました。

19世紀末から20世紀はじめのベル・エポックの時代。写真、映画、航空、鉄道、印刷、あらゆる分野において新技術がつぎつぎ実用化され、文化華やかなりしこの頃数多く作られては消えて行った紙モノたち。
写真に淡く彩色された、夢見るような美女たちのポストカード。
憧れの乗り物、自動車や飛行機、気球に飛行船はユーモラスなコラージュやイラストでも描かれています。
コマーシャルアートの先駆けでもあるハバナ煙草のパッケージ。
そして「クロモス」。
この時代と共にブームを起こした後、瞬く間に消え去ってしまったという愛らしい、趣味の印刷物。多色刷石版で花飾りや天使を象り、型抜きされてレリーフのようなふくらみをもった、掌にのるほどのクロモスは、実用性より集める事を目的とされていました。

収録されたこれら一枚一枚は、見る人を多面体の結晶のような光を放つベル・エポックの一端に触れさせ、ささやかなものを集めることの魅力へと誘うのです。

ゴメス・コレクション 100年前のヨーロッパ
第1巻 1900年の女神たち
第2巻 クロモスの世界
第3巻 機会と科学の夢
第4巻 ハバナ・エキゾチカ        
1985,86年 小学館刊    各ビ二ールカバー付 4冊セット 8,000円(ご注文は店頭かメールにて)

Tanaka

2009 年 8 月 20 日 | comment
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飽くなきティーンへの追求

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サイレント映画のような「タルサ」から「ティーネージ・ラスト」、そして服役を経て、1993年にスイスの出版社からドイツ語版「DIE PERFEKTE KINDHEIT」、1995年英語版「THE PERFECT CHILD HOOD」として出版された写真集。
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ピストル自殺を演じる少年、リヴァー・フェニックスのピンナップ、何度も繰り返される露骨な性器剥き出しの写真達。厳粛な雰囲気の「タルサ」とは違いカラー写真を多用し、書きなぐりのメモや、新聞の切れ端、ブラウン管のザラついた少年のポートレートが続く。
五十歳を過ぎてスケボーを始め、若い連中と付き合い、怪我をすることも厭わない、飽くなきティーンへの追求。フランスが生んだ怪物作家ジャン・ジュネの殺人者ヴァイドマンへの憧憬の眼差しを思い出した。
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ストレートな写真とセットアップの写真の中で揺れ動く少年達。この写真集が後の世界中のティーネージャーが永遠に見続けるであろう映画「KIDS」へと昇華するのである。高級な服や、食事に目を毒された人はすぐに見るべし。
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 [独]Die perfekte Kindheit  ラリー・クラーク(Larry Clark) 1993  HC・カバー ¥38,000

[米]The Perfect Childhood ラリー・クラーク(Larry Clark)1995  HC・カバー ¥38,000

林 裕司

2009 年 8 月 14 日 | comment
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呼吸する写真集―「遊び」が生まれる場 『SYNTHETIC VOICES』 Mark Borthwick(マーク・ボスウィック)

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1998年1月に渋谷パルコギャラリーでの個展に合わせて出版された作品集。Purpleシリーズ、SELF SERVICEなどに掲載されたマガジン・ワークスを中心に、マークのフリー・ライティング、リタ・アッカーマン、ポール・マッカーシー他を収録。97年の路上コレクション及び、マルジェラを素材に使用した作品も多数収録されています。 

 従来のファッション写真のようにセット・アップされた状況で作りこんでいくのとは違って、マークは、モデルと小物と写真家(マーク)の関係性から生まれるものを大事にしています。マーク撮る写真は、即興の音楽のようであり、「遊び」が生まれる場でもあります。生きた時間が込められており、見る者にとっても、一緒に遊んでいるような感覚をおぼえる、光に満ち溢れた瑞々しい写真集です。

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 『SYNTHETIC VOICES』 Mark Borthwick(マーク・ボスウィック)
初版 献呈サイン入 composite press/シナジー幾何学 1998
SOLD

〔Mark Borthwick〕 http://markborthwick.com/

Uehara

***展覧会情報***
現在4ヶ所でマーク・ボスウィックの展覧会を開催中です。
ぜひ、この機会に足を運んでみてください。

■マーク・ボスウィック“anna rose’ if handed down”ポラロイド展
会期:2009年7月28日(火)〜8月31日(月)
GALLERY at lammfromm / ラムフロム東京
〒151-0064 東京都渋谷区上原1-1-21 山口ビル1F
Tel:03-5454-0450
http://www.lammfromm.jp/exhibition/2009/07/728.html

マーク・ボスウィック“anna rose’ if handed down”
■GALLERY SIDE 2
会期:2009年7月18日(土)〜8月15日(土)
港区東麻布2-6-5 タトルビル1F
Tel:03-6229-3669
http://www.galleryside2.net/gallery/current/index.php

■NADiff
会期:2009年7月21日(火)〜8月17日(月)
渋谷区恵比寿1丁目18-4 1F 
Tel:03-3446-4977
http://www.nadiff.com/home.html

■BOOK 246
会期:2009年7月16日(木)〜8月8日(土)
港区南青山1-2-6 Lattice 青山
http://www.book246.com/tg_f.html

2009 年 8 月 1 日 | comment
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